すかいつりーの造形

珍建築の6月号。

新建築 2012年 06月号 [雑誌]

新建築 2012年 06月号 [雑誌]


私からすると、ばかげた建築家のぞっとするような賛美が掲載されていたので買う気はなかったのですが、川口衛先生の批評が掲載されていたので購入。この1ページだけでも構造屋は買って読む価値があります。構造屋は買って読みましょう。
一部抜粋。

(前略)
そこで、思考実験として、「風だけを設計荷重とする」、理想化されたタワー構造を考えてみよう。この構造は、とても面白い性質を持っている。というのは、通常の構造設計でスケールの大小を考えるとき、忘れることのできない「2乗−3乗則」を、この種の構造では、まったく考えなくてよいのである。具体的な例として、たとえばエッフェル塔を、今の3倍の大きさでつくりたいと思ったら、現在と全く同じかたち(相似形)で縦、横、高さをそれぞれ3倍にすれば、現在とまったく同じ健全さを持つタワーが得られる、ということである。この時必要な鉄量は、エッフェル塔が使った鉄量7,340tの3の3乗=27倍、つまり、198,180tとなる。高空で風圧力が増すと考える場合は、必要鉄骨量はその比率で増やし、使用材料を高強度の鉄に変えるならば、その比で減じればよい。こうして、スケールその他、与条件の異なるタワーの所要鉄骨量を、暗算で推定することができるのである。

(中略)
今度はエッフェル塔から東京スカイツリー(高さ634m)の相当鉄量を推定してみると、たとえば、エッフェル塔が相似形のまま、634mの高さに拡大されたとすると、その時の推定鉄量は、7,340×(634/300)の3乗=69,170tになる。これに後者の平均風荷重5kN/平方メートル(推定)、および鉄の許容応力度500N/平方ミリメートル(推定)を勘案すると、エッフェル塔の形をしたスカイツリーの推定鉄量は、
  69,170×5/3×100/500=23,060t
となる。報告されている実際の使用鉄骨量は約32,000tで、1.4倍程度の差があるが、この差は立面形の違いによる影響が大きいことはタワーのプロポーションからも推定されよう(エッフェル塔や東京タワーの高さと脚幅の比率が3〜4に対して、スカイツリーは9.2とスレンダー)。

以上、「風荷重だけを受けるタワー」という、架空の理想化された構造物を使って、実存するタワーの鉄骨量の相互推定を行ってみた。かなり荒っぽい把握であるが、たとえば設計の初期段階で、鉄骨総量の多寡などを議論する際の、オーダーの把握には、十分であると思われる。

現代の構造設計者たちは、煩瑣をきわめる計算手続きと、コンピュータ依存の設計作業の中に埋没して、自分が何をやっているのかを、見失っている場合が少なくない。そんなとき、上述のような話は、構造エンジニアでなくても理解できる内容であり、計算も暗算でできるような、簡単なものであるから、建築家側から話題として提供すれば、われを失った構造設計者を、正気に引き戻すきっかけになるかもしれない、と思う。

これって、あの形状を選んだ上にBIMを駆使してすべて異なった鉄骨形状でやったことを自慢している日建設計と大林組への痛烈な批判であると解釈しています。特に最後の一文なんて、構造家(笑)をボロカスに批評してます。

ちなみに、衛先生は前の新建築でも下記のようなコメントを出されています。

「2乗−3乗則」に基づく造形感覚は、優れた建築家や構造設計者であるために大切な要件であるが、時としてこの感性に欠ける人たちが、原理を無視して、小さな構造物での成功の経験からの類推で、不適当な構造システムによる大型構造物を試み、結局、材料、エネルギーの膨大な浪費や、多額の維持費を強いられる結果を生み出すケースは跡を絶たない。

私としては、非常に勇気付けられます。よくぞおっしゃってくれました。ほかにも、北京の鳥の巣を公の場で大きく批判したのは川口先生だけですし。やはり、大家の言葉には含蓄があります。

先日調べものをしていたら、衛先生考案のパンタドームは最近でも実例が施工されているようです。建築の世界だけ見ているとわからないですが、よそを見ると着実に技術は蓄積されていますね。

日石三菱下松石炭中継基地
http://www.miyaji-eng.co.jp/construction/business_other01.html

みんな大好き宮地建設。一緒にお仕事したことありますが、優秀です。