物事を単純にモデル化してみる

風で建物は壊れるのか?
ストラクチャーの野家氏のコラム。毎度楽しみにしている人も多いんじゃないかな?

では、「耐風設計の手法が確立され、構造設計者が怠りなくそれを行うようになった」から被害が減ったのだろうか?

そうとは思えない。
2000年の建築基準法の改定で風荷重の規定が一新されたが、しかしその10年以上前から強風による被害は減っていたのだから、法改正の効果によるものとは考えにくい。

この辺の話を体系的に文献調査したら、結構面白い結論が出てきそう。法改正によって建物の安全性が上がっていると思い込んでいるだけで、実際そうなのか??ひとまず新耐震は結果が出ましたが、そのほかの細々した改訂の有用性って実は実証されていないのかもしれません。割と面白い研究テーマっぽいので、誰か一緒に研究しましょう!

ところで、以前から不満に思っていることがある。2000年の基準法改定に合わせて登場した現行の風荷重の規定に関してだが、これはあまりにも煩雑過ぎるのではないか?
たしかに、建物の内圧の変化が強風による被害――主として屋根材や窓ガラスの飛散――に大きく関わっていることは分かるし、その学術的な成果として規定が一新されたのは意味のあることなのだろう。しかしそのことと、それをそのまま「法律」にすることは別問題である。
告示では建物の形状ごとに風力係数のとり方が仔細に図解されているが、あらゆる建物に対し、ここに書かれている内容を正確になぞった構造計算を要求するのは酷ではないだろうか。
それでも設計者から不満が出ないのは、もちろん、「プログラムが全部やってくれるから」である。あるいは規定を作る側もそれを前提にしているのかもしれないが、それにしても、ここにある規定とその背景をきちんと理解している設計者はきわめて少数ではないかと思われる。

あー、あるある。私はジジイなので『男は黙って60√h、風力係数1.2』です。だけど、2000年以降に設計を始めた若手は、ややこしい計算をしていますね。私も初めて庇の設計をするときに、風圧力の計算に四苦八苦していましたが、『そんなもん吹上の係数は2でやっとけ』という教えを今も忠実に守ってますわ。特に根拠はないですが、面倒で難しい計算をして強風のたびにドキドキして眠れないよりかは、バサッと現象をとらえて有効数字1桁の世界に持ち込んで設計した方が、枕を高くして眠れるというものです。まったくもって根拠のない話で科学的ではありません。でも、工学ってそんなもんでしょ?

日経アーキの最新号で、日建の向野氏のインタビューが面白かったです。とりあえずパソコンで何でもFEM状態ですが、可能な限り簡単なモデル化をして現象をとらえるというようなことをおっしゃっていました。まさに正論。
私はかつて、50階建てでも串団子くんで振動解析をしていました。東京ではそういうことはありえないそうです。何故かと聞いたところ、『上下動の影響が考慮できない』とか噴飯もののコメントが帰ってきて反応に困りました。あとは、ねじれが考慮できていないとか。私に言わせれば50階建ての建物でねじれを考慮しなければならない構造計画の時点で、大いに間違っていると思いますが。
いずれにせよ、人間の頭はそんなによくないので、単純化しないと現象をとらえることはできません。重要なのは、単純化することにより無視したモノが一体何で、全体の現象に対してどの程度の影響を与えるのか?ということだと思います。

もう一度学ぶ構造力学

もう一度学ぶ構造力学


野家氏の構造の本ですが目次が笑えます。

第1章 知ってるようで知らない「応力」
第2章 これだけは知っておきたい「曲げ変形」
第3章 意外と知らない「剪断変形」
第4章 ほとんど知らない「捩れ変形」
第5章 結局よく分からない「座屈」
第6章 思ったよりも奥が深い「仮想仕事」
第7章 知っておいて損はない「応力計算」