原子力規制員会の情報公開

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時間があるときに興味のある単語で検索をかけて読んでいるのですが、このサイトは『え?こんなこと公開していいの?』というところまで公開してます。基本的に議事録の書き方が、会議における発言をそのまま拾っているので、ちょっと問題のある発言もそのまま残っています。割と会議のギスギスした空気感が出てます。中には主査の先生と委員の先生で、事業者ほったらかして熱いバトルが始まったり。

私は建築の構造がメインで勉強していたので、その範囲で面白そうな議事録を。全部PDFです。
設備健全性サブWGの議事録。
http://www.nsr.go.jp/archive/nisa/shingikai/105/2/1/029/gijiroku29.pdf
16pからの流れ。
どうやらウィルソンのθ法で応答解析をして、100Hzで計算していたのを1000Hzで追加検討したらちょっと違う結果になったという事業者の報告に対してのツッコミ。委員の先生の言わんとしていることは分かります。応答解析で手法と見たい振動モードによって刻みを変えるのは教科書に書いてあるもんね。委員の先生は、計算の妥当性はともかくとして『お前ら、ホンマに分かって使ってんのか?』というごもっともな指摘です。分かるんだけど、私がこの場にいてθ法の説明をする自信ないわ・・・・。一応大学院の講義でプログラムは作ったけど忘却の彼方。
日ごろどんぶり勘定の構造設計をしている身としては、6次モードなんかどうでもよくね?なんだけど、建築構造と設備機器では気にするモードが違うんだろうなぁ。
そのあとは話がそれていって、機械業界で耐震とか応答解析をわかっている人材が高齢化しているという、これまたごもっともなお話。こういうのを読んでいると、高度人材が非常に不足しているのがありありと分かります。世間では大学の教員が多すぎるとか言われていますが、その逆で少なすぎるのです。当然教育も足りなくなると。某ゼネコンで応答解析とかやってましたが、若手は『Newmark-β法のβが1/4か1/6かをどう選ぶか』をちゃんと説明できるのは半分もいなかった気がします。
応答解析の話題の次は、実地震動を設備配管系に入力して解析したときに許容応力度越えの部材があったんでしょうね。それの是非について延々議論しています。こういう時にオタクな原理主義者は、その部材のきわめて局所的な応力度にツッコミを入れるのが世の常であるのですが、久保先生が上手にいなしていますね。局所応力に突っ込むのもいいけど、一歩下がって全体を見ろと。まさにその通り。この辺の委員の先生のやり取りがすごく人間臭いし、こうやってモノが決まっていくんだなぁ。
設備系WGということで、事業者側も機械系出身の人なんだろうけど、このやり取りを見るにつけ梁要素に縮約することを知っていて、建築の応答解析ができる人間というのがかなり貴重な人材というのが分かります。私が就職活動で三菱重工に行ったときにその場で内定出すぞ!の勢いだった背景はこういうことね。

東工大の和田章先生のコメント。
http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/shin_taishinkijyun/data/0012_12.pdf
これまた良いことが書いてあるのです。塑性後の変形能力を確保するというのは、建築構造独特の考え方で機械系の人は分かりにくい概念でしょう。
他にも、系の安全性を向上させる方法は二つある。一つはとにかく設計外力を大きくすること。これで弾性なら問題あるまい。ごもっとも。
二つ目。これは弾性限界を超えても変形能力が確保できるようなディテールとすること。
この二つをうまく組み合わせて系の安全性を確保するという、大変まっとうなコメントです。
機器の性質上どうしても脆性破壊してしまうようなものは、ピンなりローラーなりにして系から切り離すことを提案されています。これもごもっともなコメントです。実現するのはなかなか難しそうですけど。
https://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/shin_taishinkijyun/data/0007_04.pdf
これも和田先生メモ。
この手の配管がどんな設計なのか見たことはないですけど、どう見ても塑性変形できなさそうな顔をしてるんでしょう。パイプの溶接とか絶対仕口で破断します。そういう意味では、上記の細かい局所応力に対応するという意見も一定の妥当性はあるかな。
昔はスペースフレームとかで鋼管構造の研究とかやってたけど、あの辺の薄肉の材を溶接する研究とかって誰か引き継いでるんですかね。そもそも建築で鋼管構造なんか今どきやらんしな。

http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/taishin_godo_WG2/taishin_godo_WG2_14/siryo2.pdf
応答解析モデルまで公開しているという大盤振る舞い。昔構造工学論文集かなんかで原発の応答解析を読んだことがありますが、その時の衝撃。え?串団子で揺すってるの!?
なんだけど。多分50年前の一発目が串団子しかできなかったのでその続きでしょう。現在のPCパワーなら、なんちゃらかんちゃら非線形要素を使ってフルモデルで揺することはできるのですが、その場合以前の解析との継続性が問題になります。仮にフルモデルの応答が小さくなったとして、それはモデル化に起因するのか地震動に起因するのか何なのか判別がつかないのです。そういった意味では、極めて枯れた技術を使っていますね。この辺の話は、超高層揺するときにいまだにEl Centro波を使っているのと同じ理由でしょうね。前との比較は大事よ。
屋根トラスをいくつかの質点に縮約してるけど、今となっては縮約モデルを作る方がいろいろな判断をしないといけないので難しいです。しかも対象条件も持ち込んで計算リソースの集約。上品と言えば上品か。

上記ウィルソンのθ法の議論について。
建築構造学事始 | 時刻歴解析の時間刻みはどの位に設定するのがよいか?
というサイト内で取り上げられたのを探してみたわけですが、世の中には面白いブログを書いている人がいるな~。

と、ちょっと議事録を読むだけで原発には膨大なエネルギが注ぎ込まれているのが垣間見えます。工学部の先生は基本的に真面目なモーレツ研究者ですな。クソ分厚い資料を読み込んでコメントされています。マジで工学部の先生は過労死するんじゃないかと思うので、もうちょっと若手を増やしてください。あいつら50歳越えても平気で研究室に泊まり込みで仕事してます。
私は学生の時に博士課程を勧誘されたけど、『とてもあんな変態と過激な生活はできない!!』とさっさと逃げて正解でした。ゼネコンよりブラックやで。

脱原発な方々は情報公開をどうのこうの言われていますが、このレベルの専門知識のある人間を選定して情報を得ているのだからある意味すごいですね。私は建築構造に関するところですら全部読む気になりません。量が多すぎる上に、一個一個の議論がかなり濃い。