談合の話の続き

北陸新幹線「官製談合」も視野 東京地検特捜部、工事担当者ら聴取 - MSN産経ニュース
今日も元気に談合するぞ!
冗談はさておき。
昨日のエントリで、「鋼球業界の200億円の市場規模で談合しても損なんてねーよ」とか書きました。気になったので、談合を行うことによる経済損失についての論考。
とかく談合の話になれば、モラルハザードとか必要悪とか、どう考えても気持ちの問題に議論が収束して双方ともに疲れるのです。
で、探したのですが・・・・・。
これがまたないのですよ。こんなもんは経済損失についての考察がちゃんとできていた上で、『国民の血税を無駄に使うとはけしからん!』と言うべきなんだけど、これがない。1円でも無駄にするなという原理主義者は置いといて、改正独禁法になってから高速道路が安くなったとか、税金が安くなったとか、目に見える効果が何もないのです。正義の味方の思い付きの溜飲は下がったようだけど。
いろいろ探して出てきたのが下記。ほかのページも、この論考の孫ひきになっていました。公取委のなんちゃら研究会にも入っていたし、理論的支柱になっているのでしょう。
なぜ賄賂・談合は批判されてもなくならないのか 「あなたの仕事・職場」と儲かるカギ【5】囚人のジレンマ:PRESIDENT Online - プレジデント

企業間で健全な価格競争が行われていれば、企業がある一定の利益を得る一方で消費者も喜べる状況が生まれるが、企業同士が結託して、消費者の利益を無視して高価格を維持しようとすることもある。これがいわゆる「談合」だ。消費者だけではない。公共工事入札での談合による国民経済への損失は2兆~5兆円にのぼる。最悪の場合、消費税2.5%に達する税金の無駄遣いがなされている。

こいつはどでかい金額ですね!そら損失ですわ。取り締まりまひょ。
ここで、公共事業費を財務省から引っ張ってきましょう。記事では建設会社が名指しなので、政府調達とかややこしい話じゃないんでしょ。
各論3.公共事業 : 財務省
2008年なのでちょい古いですが、6.7兆円。来年度予算は馬鹿なことに緊縮に振って5.5兆円です。
さてさて、最悪の場合は5兆円の無駄遣いということは、来年度予算で言えば原価5000億で儲け5兆円ということになってしまいます。これ、明らかに数字のオーダがおかしいですね。正しかったとすると、学生が就職したい企業ナンバーワンはぶっちぎりで鹿島か清水になります。
http://www.jftc.go.jp/dk/kaisei/h17kaisei/kaisei040519.files/sisyou3.pdf
公取委の資料ですが、6ページに不正利得の推計があります。

入札談合事件による不当利得の推計値は,平成8から平成15年3月の間に排除勧告若しくは課徴金納付命令を行った事件における,公正取引委員会の審査開始後の落札価格の下落率を基に算出(公正取引委員会が立入検査を行った月に実施された入札は除いて落札価格の下落率を算出)

受注額によって上乗せ利益率は大きく変動するので、下落率の平均という手法はかなり乱暴な気がしますが、データがないから仕方がない。ここは公取委の言うように不正利得率を16.5%としましょう。
そして、日本全国の建設業者が全て談合しているということにして、公共事業費からその不正利得を算出すると以下の通り。数値は2008年の事業費で。
6.7*0.165 = 1.106兆円。超乱暴な概算ながら、何をどう逆立ちしても2~5兆円に届きません。となると、最初の記事が間違っていそうな気がします。


筆者は東大の経済学部の先生のようです。さすが、理論と計算根拠があるうえに、日経の記者様に向かって薫陶を垂れるという素晴らしい行いをしています。ところが残念なことに、日本の公共投資の金額のオーダを知らなかった模様です。惜しい!!
まぁ、この手の記事はオチが決まっていまして。

談合グループが出来上がった当初は、それなりに各社に利益が出ていたと思われる。しかし、談合の恩恵に与ろうと次々に公共事業の入札に参入する企業が増え、グループは肥大化する。さらに入札に参加するためには政治家に献金しなくてはならない。こういったプロセスを経て、一社ごとの利益は結果として年々薄くなったというのが真実ではないのだろうか。さらに長年の談合体質で企業としての生産性も落ちているから、健全な価格競争には戻れない。

政治家への献金額が雀の涙のお歳暮クラスというやる気のなさは、いつぞやか取り上げましたね。生産性が落ちているというのは何か根拠があるのでしょうか?生産性の根拠は?儲けじゃないよ。
本当に面白いくらいこの手の記事は、最後は「生産性の低い企業は退場するか構造改革すべき」と書いてあるのですが、どこかにテンプレでもあるんでしょうかねw

さて、長々と書いた結果。ネットでさらっと調べた程度では談合の損失額が出てきませんでした。
https://www.jftc.go.jp/cprc/reports/index.files/cr-0307.pdf
公取委の競争政策センターの報告書。中身が専門的なのでちゃんと目を通していないけど、談合・カルテルの存在は実証的に証明しようとしているものの、その損失額については書かれていないです。
ここはCiNii先生に聞きましょう。
CiNii Articles 検索 -  談合 利得
CiNii Articles 検索 -  談合 損失
いやぁ、ないのないの。あったとしても、上記ゲーム理論を用いた際の派生でしょう。必要なのは計量経済学の分野で、『談合良かったこと』と『談合で悪くなったこと』を一つ一つ数え上げて、経済環境などのノイズを取り除いて辛抱強く検討することなのですが、誰もやっていないようです。
で、結局経済損失は?コレガワカラナイ。
そうすると談合の是非を問う以前の問題なんだよね・・・・。そもそも談合という行為について論ずるネタがないどころかよく分かっていないから、そりゃ感情論でしかなくなるわ。話の流れとしては、禁煙運動の方が双方で損失額やらなにやら、それなりに科学的にやろうとしているからマシなレベル。