構造家という言葉
- 作者: 吉田信之
- 出版社/メーカー: 新建築社
- 発売日: 2014/09/10
- メディア: 雑誌
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「構造家」という言葉を時々目にするが、どうも違和感がある。「構造」という言葉は何らかの「行動」を連想させるものではないのに、それに行動の主体を表す「家」という字を付けているからだろう。天気予報をする人を「予報家」というのはアリかもしれないが、「天気家」はないよね。
— ストラクチャー (@structure_info) 2014, 8月 31
気持ちは分かります。
鉄筋家とか型枠家とかいないよね。基本的に私は構造設計は鉄筋屋や型枠屋に連なる業者だと思っているので、構造家といういい方にはなじめません。
さて、『構造家』なる単語には英語訳がありません。おそらく日本独特の単語になるのです。wikiさんによると、
構造家 - Wikipedia
構造家(こうぞうか)は、建築構造エンジニアの中でとくに作家性、作品性のある者をさす日本独自の呼称。
だそうです。今一つ定義が明らかでないうえに、建築家村のデザイン部落でしか通用しない単語です。構造家と認定されてるのって、過去も含めて20人くらいでしょうか。
さて、この『構造家』なる単語はいつから生まれたのでしょうか?SDGの渡辺邦夫氏によれば、
僕の師匠である木村俊彦先生(1926-2009)に始めてお会いしたとき、もう五十年前の話だが、先生がくれた名刺に、「構造家 木村俊彦」と書いてあり、「へー、構造家という呼び名の職能があるのですか、これは木村さんが考案したものですか?」と尋ねたら先生は笑いながら「坪井善勝先生(1907-1990)が最初に命名したのだよ」。 数年あとになって坪井先生に「構造家」の由来を聞いたら、「あれは木村君が勝手に名乗っていたので自分も真似しているだけだよ」と。結局、ルーツはいまもってわからないが、なんだか構造デザインを実践する技術者の呼称としてロマンがある。
SDG japanese ひとりDEBATE Part 2
とのこと。ただし、この連載があった1990年代半ばから50年前というと、戦時中になるので渡辺邦夫氏の年齢から言っても記憶違いのような気がします。渡辺氏が大学を卒業する前後の1963年くらいの話なのではないでしょうか。
先日購入した横尾義貫先生の退官記念本によると、1953年の『建築と社会』の寄稿文において既に『構造家』なる単語が出てきます。
(前略)
想像的な形態をした多くの鉄筋コンクリートアーチ橋の設計者R.Miaillartの言葉、「計算家Rechnerではなくて構造家Konstrukteurであれ」をおくり、構造技術家のひとりである私もともどもに反省してみたいと思う
ロベール・マイヤール - Wikipedia
という記述があります。
Konstrukteur – Wikipedia
Konstrukteurはドイツ語で言うところのデザイナーのようです。ドイツ語読めないので、機械翻訳をもとに推測すると、エンジニアリングに根差した設計を行う人というニュアンスで、航空機の設計技師やプロダクトデザイナーなどで、10年近くの実務経験の後与えられるライセンスのようなものです。建設分野だと、エッフェルが例に挙げられていますね。
もうちょい古くまで遡ると、下記の論文に当たりました。CiNiiに金払ってないから読めないので誰か頼む。
CiNii 論文 - 明日の構造理論 : 構造家とデザイナーの協力のために
1950年の論文になります。山本学治氏ですね。
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と、私の軽い調査では出どころは不明でした。てっきり90年代後半から言われるようになった新しい言葉だと警戒していたのですが、それなりに昔から使われてきたんだなと納得。
ただし、由来も定義もよく分からないのはちょっと気持ち悪いなと思うので、私は従来通り自称構造屋でお願いします。
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横尾義貫先生って、建築家の増田友也と組んでたのね。東の丹下・西の増田と呼ばれた時代があったとかなかったとか。最近の若い人は知りませんで。。。。。