長周期地震対策

超高層ビル「ゆっくり揺れ」対策も義務化 国交省方針
いまひとつ国交省の意図が読めないところはありますが、個人的な雑感を。


まずは、なぜ長周期地震地震動が今ネックになっているのか?
阪神の震災など、今日の日本において壊滅的な被害をもたらした地震は、短周期帯にピークを持つ地震動が多く、日本の耐震設計も基本的には直下型の短周期地震動に対する策を入念に行うことを念頭においています。すると、技術的には当然ながら建物の固有周期を伸ばして、入力地震動を小さくして効率的に安全な建物を作ろう、という発想になります。この発想自体は、過去の震災を糧に得られた非常に貴重な知見だと思います。


さて、建物が長周期化するとはどういうことかというと、おおむね固有周期は建物高さと相関関係にありますので日本にある固有周期の長い建物は
・超高層建物(120mクラス)
・免震建物(低層でも免震装置を入れることで長周期化)
の2パターンです。
対策を打つ必要があるのは、上記の建物でしょう。

このうち免震建物は免震層に集中的に減衰を配置しているので、個人的に実は長周期地震動がそこまでクリティカルになるとは考えていません。仮にサイト波で変形が大きくなりすぎた場合でも、ダンパーを少し足すだけで構造安全上問題のないレベルにすることは可能だと思います。


超高層建物については、基本的に鉄骨造で減衰能力も低いことから過大な変形量になります。これも、ダンパーを付加することで解決可能ですが、いかんせん多層にわたって配置する必要があるため、かなりの費用および建物内部空間への干渉が出ます。技術的には十分解決が可能な問題ではありますが、社会的な情勢がなかなかそれを許してくれないのが問題になりそうです。工事をやるにも先立つお金が必要ですから。。。。耐震補強率が100%でない理由を思い出しましょう。


長周期地震地震動そのものについては、研究がまだ成熟しておらず不明な点が多いですが、こと躯体の挙動という点においては既存の技術を用いて十分に押さえ込めるレベルにあると思います。
最大の問題は、こういったプレスリリースが出てしまったことで超高層,免震=危険というコンセンサスが出来上がってしまったことではないでしょうか。日本の超高層建物は、時刻暦応答解析を行い、精緻な検証を行っているため実は一番安全な建物なのですが、世間では認知されていないのでしょう。
このプレスにより、間違いなく既存超高層の資産価値が不当に下落する可能性がありますが、社会不安をあおるだけあおって落としどころはあるのでしょうか?
また、大臣認定において長周期地震を入力して設計クライテリアを満足している建物もあるわけで、そういったものまで既存建物と十把ひとからげとしてしまう姿勢にも疑問符が沸きます。


そもそも論ですが、長周期以前の2000年の告示波改正について触れていないのはなぜなのでしょう?むしろこちらの方が補強するのであればクリティカルになったりしそうなものですが。もろもろ含めて、今後の顛末を見守りたいです。