解析モデルの適用の限界を考える

「国家は破綻する」著者ロゴフ氏らが誤り認める、公的債務研究めぐり米研究者らの指摘受け

国家は破綻する――金融危機の800年

国家は破綻する――金融危機の800年

両氏は2010年の研究「Growth in a time of Debt」の中で、政府債務が対GDP比で90%を超えていた国の平均成長率はマイナス0.1%になったと主張していた
 ただ、マサチューセッツ大学アマースト校の研究者らの研究も、重い債務を抱えている国の成長は一段と減速するとの両氏の研究内容を裏付けているようにみえる。研究者らは、債務水準が例外的に高い国の平均成長率は2.2%で、債務水準が低い国の成長率を下回っている、と指摘している

ユーロ圏のシバキ上げ緊縮財政派の理論的な根拠となっていた論文が否定されました。
ざまぁ。
ではなくて、これをもとにして多くの人々が職を失ったりしたわけですが、経済学者が災害を振りまいているとしか思えません。こういうのを人災というのです。

数字の際は、データをまとめる際の表計算に問題があったとのこと。細かいことはさておき、こんな些細な間違いで成長するか収縮するかの差が出る解析モデルに問題はないのでしょうか?
例えば、私のような構造屋が使っている解析ソフト。素人さんは、さぞかしちゃんとデータ入力していると考えているでしょうが、結構いい加減です。鉄筋やコンクリート強度、断面サイズで違うのが入っていたとしても、部分的な応力や耐力に差はあれど、概ね間違っていない答えを返してくれます。例えば、部材応力が倍半分違うことはあれど、建物の変形角で倍半分異なることはまずありません。そんなお間抜けをする方が大変です。
一方、今回のニュースで話題になった論文。データを入れ間違えただけで、完全に180度違う答えを返してきます。経済は生ものだといわれるほど、不確定な事象を扱っているにもかかわらず、このような不安定性を持っているのは、モデル自体に問題があるのではないかと思ってしまいます。これが、+2.2%と+2.8%の違いというのなら、まぁそんなもんかなんでしょうけど。

解析モデルつながりで、日本のマクロ経済を司る内閣府モデル。これがまた、挙動不審なのです。
http://rockbell4.blog25.fc2.com/
http://rockbell4.blog25.fc2.com/blog-entry-35.html
藤井聡先生の国会での答弁より。リンク先中段くらい。

物凄い大事なグラフがありまして、内閣府のモデルがちょっと挙動が不審であるという証拠がありまして、その証拠をちょっと御覧に入れたいなと。すみません、使い方が良く分かって無くて……すみません、何か変な時間使ってしまって……。この次です、これです。
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これは、逆なんですが、公共投資を1%削ると逆乗数効果があって、通常は御覧のように、例えば東洋経済のエコノメートですか、のシミュレーターだと、1%公共投資を削るだけで3.5%以上、名目GDP、これ名目だったと思いますけれども下がっていくと。低いやつでも例えば2%ぐらい下がっていくというのが、2%から3%ぐらい下がる――これは、増やすとこれ逆になるんですけれども――というのが世界中というか、もう普通のシミュレーションモデルの挙動です。

ところが、内閣府のモデルだけ何か、酔っ払ってはるのか何してはるのか分かりませんけれども、これ何か、削ったら伸びとるんですよ、これ。何してんねん、自分、みたいな感じ。これは逆に乗数効果が極端に低いモデルになっていまして、ここは是非是正いただかないといけない。

私は経済学の専門家でもないし、マクロ経済を学んだわけでもなく、当然統計学も教科書程度の知識しかありません。ただし、言えることはひとつあります。同一の境界条件で複数のソフトを流して、1つのモデルだけ答えの方向性が明らかに異なる場合は、そのソフトの適用範囲を疑うべきです。
内閣府のマクロモデルが間違っている、デタラメだと言いたいわけではありません。あれはあれで、理論的な裏付けが当然あるわけで、その辺は専門家の方がちゃんとやっていることでしょう。問題はそうではなくて、適用可能な範囲を外れているのではないか?ということです。というか、こんな簡単なスタディで挙動がおかしいので、使っている理論が適用の範囲内であるかどうかをまずは疑うべきでしょう。あるいは、ほかに何か言い訳を作るか。
このモデルの問題点ははっきりしていて、構造改革の鬼であるIMFモデルがベースになっていることです。基本的に発展途上国で、生産施設が不足していて万年インフレに悩まされている国用です。そんなもん、遊休施設がゴロゴロしてて、海外で生産しまくっている日本に合うわけないやろ!と、常識的な判断ができなかった模様です。小泉・竹中時代に盛り込まれたモデルだそうですが、これって人災ですよね。極めて馬鹿げた失策だと思います。

と、ある時から経済関連の本も読むようになりました。
直接のきっかけは、どっかのブログに『最近の経済学者は数式を解くことが経済学だと思っている馬鹿が多くて困る』みたいなことが書いてあって、まさに構造設計業界と同じだからです。解析することが構造設計だと思っているおバカさん、たくさんいませんか?